2017年2月の日記
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2月24日

世界は認識でできている?

 1月下旬、ぼくと姪の誕生祝を一度にやることになり、弟夫婦・義妹の両親・ぼくと両親が一堂に会しました。

 孫(ぼくから見て姪)が可愛くてたまらない母は、その後寂しさ故か、昼間に転寝をするたびに横にいたはずの姪がいないなどの感覚にとらわれてしまうようになりました。 

 5日ほどして弟から、母が幻覚を見ているようだと連絡がありました。弟一家は離れて住んでいるはずなのに、義妹や姪が来ていると言い出したそうです。



 数週間ほど──断片的かつ無秩序ながら、設定上は現実に即していないでもない──という妙な幻覚が頻発した後、母は依り代を作り上げました。タオルケットでくるんだ、海豹のぬいぐるみです。(以下、「この子」と表記します)

 ここから、安定したと言えば聞こえが良いですが、不動のストーリー基盤が出来上がってしまいました。




 弟夫婦に何故か第2子がおり、足首から下しか動かぬような奇形で、大きく痛々しい手術跡(ぬいぐるみの縫い目ですが)がある──それが海豹に与えられた役割です。

 手のひらに乗るような小さなぬいぐるみですが、母から見れば表情もあり視線も動く、立派な人類です。

 「この子」は母に預けられており、その原因はフルタイムで働く義妹にあり、また託児の理由に関する弟の説明は優秀な頭脳を持たねば理解不能なものである──という、なんとも身勝手な設定もついています。



 父や弟は最初は驚きます。誰だって、えっ?という反応をしますよね。そのことも、母は大仰なドラマに変換して覚えています。

 父は、「そんな毛布一枚で!」という謎の文句を叫んだことになっています。現実の父は、孫娘の代わりになる幻想だと冷静かつ穏やかに受け止めているのですが・・・。

 弟は、「生き物でもないのに声を出すわけがないだろう!」と怒鳴ったことになっています。万が一心の中で一瞬思ったとしても、弟が小さなぬいぐるみの事をそんな風に言うわけがないのですが・・・。

 その間まったく顔を出さずにいたぼくは、毎日通って「この子」に挿管し栄養補給する助っ人──いう設定になっていました。

 おそらく、新製品を購入する度に説明書とにらめっこして使えるように助けていたのがぼくだったからでしょう。



 とまあここまでご説明申し上げて来ましたことの大半を理解せぬまま、ぼくは現状をこの目で確かめに行きました。事前に父には、自分が行くことで悪影響がないかと尋ねたのですが、そんなことがあるはずがないと言うので。




 ぼくが到着するなり、母はリビングの引き戸を指差して、何が真実かはあそこに皆貼り出した、私はもう騙されない、と言いました。

 それから(何も貼られていない)引き戸に寄って行き、真剣な表情で「指差し確認」をしていましたが、やがて戸の下方に目をやると表情を緩め、屈んで戸のガラス部分を突き始めました。

 声を出してあやしてみたり、にこにこ笑ったり・・・その後、引き戸の周辺を念入りに雑巾掛けしていました。




 新たな設定もどんどん出来上がっていました。母のありように否定的な意見を言う人たち(母の見ているものが現実でないと指摘する人たち)は、自宅そっくりな別の場所にいるんだそうです。

 そこでは、母の知る人物がツッケンドンだったり別人格だったりして、非常に居心地が悪いのだそうです。皆が仮面を被っていることがあったり、さらに真っ赤なモヒカンのカツラを加えて仁王立ちしていたりするようです。




 近所の方のご親戚が、寮とでも呼ぶべき建物を所有しているのですが(これは事実です)、それが母の世界では「怪しげな宿」であることになっています。

 これが上述の「自宅そっくりの場所」と重なる時もあるようで、あんな場所から出てくるのを見られたら、淫売の元締めと思われる──などと笑いながら嘆いていました。




 「自宅そっくりの場所」には誰彼かまわず入って来ているようで、良く知る人物が母の事を覚えていない様子だったりもするようです。母の見たぼくもそこに来訪していたようで、あんなところから良く歩いて帰ったね、などと労わってくれました。

 就寝前に限りますが、自宅にも誰彼かまわず入って来るそうです。父には見えないのでおかしいと思っているようですが、気にするなと言われて毎度眠ってしまうようです。



 ぼくと一緒にいる時には、亡き祖母(父方)や伯母(父の長姉)が見えていたようです。このように故人が見えるケースですと、なぜか自慢げに「私にはわかるのだ」と言います。

  伯母は「この子」をなでながら、かわいそうにかわいそうにと何度も言っていたのだそうです。見えた瞬間は現在進行形だったはずなのですが、何をしていたか を話しているうちに過去形になってしまう──そんなところが「いかにも」なのですが、本人には理解できようはずもありません。



 ただ、面白い変化もありました。これまで絶対的に否定して来たコーラとハンバーガーを勧めて来たり、ぼくが柑橘類でアレルギーを起こすこと(長らく無理解でした)を理解していたり、全体的に「朗らかな子供」のようでもありました。

 弟には言い難いのですが、ある意味・・・今の方が良い点も多々あります。



 では来訪は成功だったのでしょうか。答えはNOです。そう、ぼくには「設定上のぼく」が行う挿管や栄養補給などできません。それも、母の脳内にしかない映像を再現しなければならないのですから、うまいこと流すなどというわけにも行きません。

 16時か17時には頼むとしつこいので、15時30分頃に「仕事が来るから戻る」と行って出て来ました。あわよくば、母が妄想で色々と補完しておいてくれると良かったのですが・・・。

 19時を過ぎて、自宅に戻ったぼくに母から電話が来ました。「あの子が欲しがっている、すぐ戻ると言ったのに何故早く来ないのか」という内容でした。

 仕事を請けに戻った、何も心配ないから一度寝て起きてから様子を見ろ──といったのですが、「ヤダ!」とごねて聞きません(笑

 仕事なのだから仕方がないではないか、大丈夫だからとなだめすかしていたら、「それじゃ私は耳栓をしないといけなくなる」というので、それはいい、そうしておけば大丈夫だと乗っかってみたところ、ひとまず納得してくれました。



 父と二人だけで話せる時間は多くはなかったのですが、「当面このままにしておいて欲しい」という言葉を得たこともあり、母のファンタジーに乗りつつ流しつつ、とりあえず一段落しました。

 弟にも、父の意向とそれに付き合うぼくの姿勢とをメールで伝え、ふう・・・と思ったのも束の間。

 従姉から「早く医者に見せたほうが良い」というメールがあった──と弟から知らされました。詳しくは聞いていませんが、母からの意味不明瞭な電話があったのかもしれません。

 ひとまず、従姉と弟に向けて「現在の母の設定」についてメールで詳しく説明し、ようやく一日が終わりました。

 親族を含む知古関係への説明は、これから何度もしていかないといけないでしょうね。

  





 ところで・・・母の状態は、孫娘可愛やという気持ちと、以下の2つとが合体して作り上げられたものだと思います。

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【長い人生の中で体験した辛さ・悲しさを自ら慰める】

 ぼくの「死んだ方の弟」のことは随分昔にお話しましたが、ぬいぐるみに大きな手術跡が残っていることは、生まれて一月と持たずに逝った、この弟の死と密接に関係しています。

 赤ん坊に生えているはずのない陰毛()あたりにも傷があると言っているのですが、これは30年ちょっと前に母が初めて経験した主要摘出手術と結びついています。

 亡き伯母は、母にとって、悪気のない──というよりむしろ「気遣いでする言動」のせいでイライラするような相手でした。その伯母が、孫の代わりでもあり母自身の投影でもある「この子」を慈しむという映像は、もちろん母の希望に他なりません。

 他にも、鉄砲水で親友を亡くしたとか、腹を空かした児童として迎えた戦後とか、色々な出来事を経験した自分の分身としての「この子」でもあります。

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【良妻賢母タイプでない女性への不満】

 上述の義妹だけではありません。従姉などに関しても、フルタイムで働いている身近な女性に対しては皆、我が子のために職を辞せと思っているのが、いつもの母です。

 その人たちが嫌いだとか、母が思想的に良妻賢母をよしとしているとか、そういうことではありません。

 母は父と職場結婚しましたので、転勤を余儀なくされました。しかし転任先がとんでもなく遠くだったことで、組合まで乗り出してくる大騒ぎになりました。

 裁判などを生理的に嫌う母は、そこでキレたのか何なのか一気に退職してしまいました。その後、6歳の息子(ぼくです)に「お前のために仕事辞めた、もっとやりたかったのに」と母が呪いの言葉()を発し続けたのを良~く覚えています(笑

 フルタイムでの職務を全うできる女性たちに対しては、うらやましさ──もっと平たく言えば「面白くない」という感情を持っていることでしょう。まあ、そういうことです。

 更に、性別を問わず「型にはまった従順さ」を他者に求めるのが母です。それを少しでも外れた印象を持ったが最後、妄想の世界でも悪者にしてしまいます。

 それが先ほど書いた「自宅そっくりの場所」に現れる、「仮面を被った赤モヒカンかつら」の人たちです。母がこれまで、誰それはどうしてこうこうでないのかとボヤいていた相手ばかりです。

 でもまあ・・・独断的な悪しき感情を、今いるのとは違う場所に封じようとしているのなら、それは母の良心なのかもしれません。

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 ──さて、初めて「助っ人」足り得なかったぼくの設定はどのように変化するのでしょうか。また、今後弟が本物の姪を連れて行った場合、どんな変化があるのでしょうか。

 最悪なのは、現実のぼくに「妄想上の助っ人業務」が今後も課せられることです。今日はどうして来ないの、などと現実に電話して来られたら迷惑この上ないですからね。


  (⌒∇⌒)ノ それさえなければ、そこそこ面白いです♪

 弟とも相談しつつ、ゆっくりじっくり対処します。

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